私は、私立の中高一貫教育の学校に通っていました。
幼稚園からあるのですが、私は中学入試で入学しました。
半数ほどが、幼稚園か小学校からの持ち上がりで、残り半数が中学受験で入ります。
いわゆるお坊ちゃん、お嬢さんが通う学校として地域では認識されていました。
実際には、みんながそういう家庭の子ではありません。
全体的に、おっとりしている生徒が多かったです。
また、電車通学のため、よぶんなお金を持っていることもあり、周辺の不良たちから、カツアゲのかっこうのターゲットとして、みなされていました。
学校の先生からは、以下のような指導が繰り返し行われます。
「不良にからまれたら、どんなことがあっても、決して抵抗してはいけない。
抵抗したら、けんかになり、君たちは負ける。
負けなかったとしても、けがをすることになる。
ご両親からいただいた大切なからだに傷がつくようなことになるので、絶対にけんかは、いけない。
絡まれたら、抵抗せず、すぐに財布をまるごと渡すように」
この教えを守る生徒が多かったせいかは不明ですが、男子生徒は、本当によく、ねらわれていました。
女子生徒は、かつあげにあうことは、なかったようです。
不良にも仁義があるようです。
さらに、指導は続きます。
「いいか、君たち。
財布は、最低でもふたつ持つように。みっつなら、なお良い。
お金は、分散させて、財布に入れておくように。
不良に絡まれたら、まず、一番少ないお金をいれた財布を渡すんだ。
これで、たいてい、不良は満足する。
もし、もっとあるだろう、とさらに絡まれたらふたつめを渡そう。
ご両親だって、君たちがけがをするより、そちらのほうが、ずっといいと思っていらっしゃるんだよ。わかったね?」
当時は、そんなことを教えるから、ますます不良からなめられるのではないか、と思ったものですが、大人になってから考えると、母校の教えは、あながち、間違いではなかったな、と思います。
この話を家ですると、父も母も、「なるほどね、先生もうまいこと考えたね。ひとつのかごにたまごを盛るなって言うからね」と笑っていました。
自分のことならともかく、もし私が自分がおっとりした男の子の親なら、お小遣い程度で殴られたり、けがするくらいなら、先生の教えどおり、財布を渡してけがなく帰ってきてほしい、と望むと思います。
歳をとってからわかることも、あるものです。